山形県 沈黙の初夏
酒田は山形県庄内地方北部に位置します。庄内平野は北に鳥海山、南に朝日連峰、南東には月山がそびえ、一面の水田が広がっています。 初夏、水が張られたばかりの、あるいは田植え直後の水田に、残雪の残る山が逆さに映る風景は、特に美しいものです。車を停めて眺めると、畔にサギゴケやスミレの大群落。うっとりしてしまいます。 しかし、なにかもの足りないのです。何だろう? それは音です。水田につきものの音って何だかわかりますか? それはカエルの声です。もちろん全くいないわけではなく、高いトーンのコロコロ、コロコロという声は聞こえることもあります。シュレーゲルアオガエルですね。産卵に集まったアマガエルのゲ、ゲ、ゲという声も聞こえることも。 しかし、以前は田んぼの主役だったトノサマガエル(正しくはトウキョウダルマガエルでしたか?)の声は全く聞こえません。 一昨年、初めて羽黒山を訪れた時、メインコースを離れて南谷という所に寄りました。松尾芭蕉も訪れたという僧坊の廃墟で、今は遺構と池が残るばかりです。池に覆い被さる木の枝にはモリアオガエルの白い泡状の卵がついていました。しばらく水面を眺めていたら、腹の赤いイモリを押しのけるようにぬっと顔を出したのが、巨大なトノサマガエルでした。(もちろんトノサマガエルとしては巨大という意味ですが。) ああ、トノサマガエルは今ではこんな秘境のような場所でしか見られなくなったのかと、複雑な気持ちを抱きました。 異様な静かさは田んぼだけではありません。6月には関東や中部地方より遅くアカシアが咲きます。洗顔石鹸のような香りと目立つ大きな白い花房で、あそこにもここにもアカシアがあることに気づき、この植物の繁殖力の強さがわかります。 一昨年には、アカシアの花の存在を知らせるもう一つのサインがありました。ぼくはそれを「歌う木」と名づけていました。歌う木は、アカシアだけでなく、海岸などの防風林に低木として生えているムラサキシキブでも見られました。いや、歌う木は見るものではなく聞くものでした。まるで木が歌っているように、木全体がウワーンとうなりをあげているのです。もうおわかりでしょう。ミツバチやクマバチが集まってくるので、その羽音が集まって、木がうなりをあげているように聞こえるのです。 しかし、もう木は歌をやめてしまいました。少なくともぼくの家の周辺では、セイヨウミツバチもニホンミツバチも姿を消してしまったのです。 人は姿を現すものには気がついても、ひっそりと消えていくものには気がつかないものですね。地元でもあまり話題になりません。しかし、沈黙の春、じゃなかった不気味な沈黙の初夏は、もっと関心を持つべき現象だと思うのです。 画像2枚目はサギゴケです。コケの仲間ではないのですが。 ![]() ![]() ![]() ![]() | |
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ひとこと数:6
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高田 泉 さん[1197] | 2012-06-14 15:54:39 |
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藤田文雄さん[1245] | 2012-06-14 17:01:57 小学校の頃、博覧強記の貴兄の最も得意な分野が生物で有った事を思い出しました。 |
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関雅行さん[1199] | 2012-06-14 21:10:52 写真は鳥海山ですか。綺麗な姿ですね。 |
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藤井はるみさん[1693] | 2012-06-15 07:28:12 hamakenさん、 |
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佐藤敏夫さん[1589] | 2012-06-15 13:07:09 結局、無常ということですか。 |
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hamakenさん[1523] | 2012-06-15 15:03:23 以前、親戚の通夜の帰りに気分が悪くなり、一瞬、死を覚悟したことがあります。激しい脱力感に襲われ、その間、視界が暗くなりものが見えなくなってしまったのです。 |
hamakenさん、いい風景、すてきな写真ですね。こういう場所に行きたいと、いつも思っています。山形は、山形市の近く、蔵王、天童の周辺ぐらいしか知りません。ぜひ、これからもこんなすばらしい風景をお見せください。
長くいた九州はヒキガエルが多かったので、カエルの鳴き声というとあのゲコゲコという低音を思い浮かべてしまいます。