第45回 シーズー犬「シシ丸」 いつもキミが、そばにいた
今度はパピちゃんのお母さんに会ったが、やはり「見かけなかった」という。かなり暗くなってきた。ヤバイぞ! シシが好きそうな場所は、もう探し尽くした。万が一、公園の外に出てしまったら、そこは車道だ。通行量も多い。不吉なことを考えるのはやめろ!と自分に言い聞かせながら、娘とママの顔がちらつき、「探したけど、どこにもいませんでした」では、おめおめと家には帰れない自分に苛立ってきた。
可能性は低いが、私を見失ったシシが機転を利かせ、いつも車を止める公園の外周道路の近くにいてくれないかと祈りながら、その場所に向かって走った。すると、夕闇の外灯に浮かび上がる小さなシルエットを見つけた。キョロキョロとあたりを見回しながら、何かを探しているように見える。 (どうか、どうか、シシでありますように) 祈りは通じた。そのシルエットは私に気づくと、うれしそうに尻尾を振りながらこちらに向かって走って来た。シシだった。 「シシーっ! こんなところにいたのかよ。やっと、やっと見つけた。探しまくったぜぇー」 シシを怒る気にはなれなかった。南極に置き去りにされ、自力で生き抜いたタロとジロがふたたび隊員に出会った時の感激ぶりを思い出し、私はその隊員になったような気分になった。だから、やさしく、やさしく、声をかけながら、なでてあげた。シシが人間なら賢いということになるのだろうが、相手は犬である。どんな気持ちで、何を考え、どこをうろついていたのか、私には考えも及ばない。「低い可能性」と「機転」は現実のものとなり、安堵の気持ちが満ち溢れてきた。 「シシ君、疲れたね。もう、ひとりで勝手にどこかに行ったりしないでね。さあ、一緒に帰ろう」 ロープでしっかりとつなぎ、車に向かって歩き出した。 ![]() 何事もなかったような顔で家に帰り、風呂から上がると電話が鳴った。すると、電話を取ったママが素っ頓狂な声を出した。 「えーっ、そんなこと何も聞いてないよ。シシは、ちゃんといるしぃ……」 心配した、チャッピーのお母さんからだった。ことの一部始終を話していることが、手に取るようにわかる。ママは電話の声を聞きながら、しらばっくれていた私に冷たい視線を送ってきた。 電話が終わって娘とママになじられても、私には返す言葉がなかった。 すると、また電話が鳴った。今度はブリーダーさんからだった。 「チャッピーのお母さんから聞いたんだけど、シシ、どうした?」 「それがさぁ、シシは何事もなかったみたいに帰って来て、ここにいるんだけど、ウチの旦那は帰って来たのに一言もシシが迷子になったことを言わないんだよ。ひどいと思わない?」 (わかりました、わかりました。私が悪うござんした。もうこれ以上は責めないでください、十分に反省していますから。もう勘弁してくださいよ) その晩、私はいつも以上に酒をあおった。もちろん、ふたりになじられたことも理由のひとつだが、それより何より、シシが見つかってほんとうによかった、ホッとしたという気持ちが私を心地よい酔いの世界に誘ってくれた。 |
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