第47回 シーズー犬「シシ丸」 いつもキミが、そばにいた
テニスに出かけるある土曜日の朝、仕事があるので代わりに病院に行ってほしいとママに頼まれ、私が薬をもらいに行くことになった。土曜日は病院が込んでおり、診察には時間がかかるから、シシを一緒に連れて行くのは無理と聞いていたので、薬だけをもらうつもりで出かけた。病院に行くと、診察を受けている犬は一頭だけだった。「今日みたいに小雨混じりの日は、患者さんが少ないのよ。お父さんの都合さえよければ、今からシシ君を連れてくればいいのに」と女医さんに言われ、私はトンボ帰りで家に戻った。久しぶりに車に乗るシシが興奮するといけないので、娘も同乗することになる。「エコーを撮られると、家に帰ってから必ずシシが発作を起こしてバクバク状態になるから、エコーだけは絶対にやめてもらおうね」と、ふたりで約束して。
診察台に乗せられたシシは、おとなしくしていた。でも、あっという間に胸の毛を刈られ、看護士さんふたりに前足と後ろ足を引っ張られてうつぶせにさせられると、すでにエコーの画像が映っていた。例の雲が湧き上がるような映像が、目の前にで展開する。女医さんが画像を見ながら何やら講釈を垂れていたが、私は唖然として聞く耳を持たなかった。今度は横向きにしようとしたので、 「先生、もうやめてください。エコーを撮られるとシシは必ず発作を起こし、かわいそうなくらい苦しむのがわかっていますから」 そう頼み込んで、やめてもらった。 娘は帰りの車の中で泣きながら、毛をバリカンで刈られてうっすらと血がにじんだシシの胸を見つめ、 「エコーを撮っても、いつも薬をくれるだけ。早い話、研究材料にしてるだけじゃない。取り立てて何もしてくれるわけじゃないんだから、こんなことしてたらシシ君がかわいそうすぎる。もう、あの病院にはもう絶対に連れて行かない!」 と私に向かって抗議した。確かに……、そう思わざるを得なかった。 調子のいい日のシシは、ダメ!と制止しても部屋をピョンピョン飛び跳ね、その直後には必ずガーッ、ガーッと吐く仕草をして発作を起こした。小さな発作ですんだ時は、四、五日くらい調子がいい日が続くこともあった。そんな日が続くと、小声で「どうしたんだろう、不思議だね。なんでこんなに元気がいいんだろう」と家族でいぶかしがった。小声で話したのは、大声でそんな話をしてしまうと反動で急に具合が悪くなったりするんじゃないか、と心配だったからだ。もうすぐ新年、町もざわめき始めた十二月半ばを過ぎたというのに、シシは依然として小康状態を保っていた。 ![]() それは暮れも押し迫った大晦日の夕方、五時くらいのことだったと思う。二階でテレビを見ていた私は、「パパーっ、シシが大変! すぐに降りて来て!」という娘の大声で階段を駆け下りた。見ると、これまでになく、シシの体が大きく波打っている。苦しくて、苦しくて、目にいっぱい涙を浮かべていた。尋常ではない。 「シシ君、どうした! これってヤバイよ。すぐにニトロを入れよう」 焦っていたこともあり、娘もふだんとは勝手が違ってなかなかうまく入らない。うまく入らないと、薬は溶けて流れ出してしまう。十分が経過、二十分経っても……、四十分を経過しても、シシの喘ぎは収まる気配がない。案の定、畳が白くなっており、薬が流れ出していた。 |
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